本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。
今回は、KPMGが毎年行っている調査レポートである「グローバル・オートモーティブ・エグゼクティブ・サーベイ2023」から、材料や部品の供給継続の懸念についてを取り上げ、グローバル企業と中国企業の認識を比較し考察しました。

自動車の材料・部品の供給不足に対する認識

各国のエグゼクティブに向けて、「今後5年間において、自動車の材料・部品の供給継続について、どの程度懸念していますか?」について尋ねたところ、グローバルでは、「まったく懸念していない」または「やや懸念している」と回答した比率はいずれの調査項目でも約20〜30%という結果に対し、中国のエグゼクティブはすべての項目で40%以上となっていました。つまり、中国企業のエグゼクティブは供給継続に対してかなり楽観的であるようにみえます。

材料・部品の供給継続とは何を意味しているのでしょうか。
一般的に、天変地異や紛争、設備異常やストライキなどの想定困難な不可避の事象による材料や部品の供給停止は、さまざまな分野で毎年発生しています。このような不可抗力に直面した場合、海外の材料メーカーやその材料を利用した部品メーカーはフォース・マジュール(Force Majeure)宣言を行い、供給契約の免責を求めます。そのため、購買契約書にはこの条項が織り込まれていることが一般的です。一方、その材料や部品を利用するユーザー企業は予定していた物品が納入されないという事態に直面し、生産スケジュールの見直しや生産停止に追い込まれることとなります。このため、材料部品の供給継続というのは会社運営そのものを脅かすリスクとなり得ます。

ユーザー企業が、供給継続対策に取り組む上で重要となる概念として、ロバスト性(頑健性)とレジリエンス(回復性)があります。ロバスト性は、外乱が生じた場合に通常の状態を維持し続けられるか、レジリエンスは、外乱が発生して出力が低下した場合に、いかに通常状態に回復できるかということです。これらの概念を指標化して、他の事業に関する指標とともに最適化することがサプライチェーン設計では重要となりますが、このなかでもグローバル化に伴い複雑化したサプライチェーンを短くする、つまり、最終消費地に近い地域で生産するという地産地消によってリスク低減を図るという対策もあります。

【今後5年間において、自動車の材料・部品の供給継続について、どの程度懸念していますか?】

自動車の材料・部品の供給不足に対するグローバルにおける認識傾向_図表1

出典:「24th Annual Global Automotive Executive Survey」(KPMGインターナショナル)

今後5年間の材料・部品の供給継続における各国のエグゼクティブの認識を、上図のとおり項目別に調査しました。半導体のようにグローバルでサプライチェーンが構築されており中国企業の存在感が比較的低い項目に対しては、「まったく懸念していない」または「やや懸念している」と回答した比率が40%である一方、中国企業の材料生産量が多い鉄鋼、アルミ、銅は51%と、相対的に高い回答結果が得られました。このことから、中国は鉄鋼、アルミ、銅を自国内で生産できるということが今回の調査結果の根拠となっていることが推察できます。

次回は、調査対象の材料のうち、バッテリーや車両に使用される材料(リチウム、コバルト、ニッケル、マグネシウム、鉄鋼、アルミ、銅)の資源埋蔵量や材料生産量について現状と課題を解説します。

第24回KPMGグローバル自動車業界調査では、30ヵ国1,041人の自動車業界および周辺業界のエグゼクティブに対して、「BEVへの移行に現実的な解を市場は求めている」として、グローバルの展望、パワートレイン、デジタル消費者、サプライチェーン、テクノロジーに関する調査を行いました。 詳しくはページ下のリンクからレポートを参照ください。

※本稿では、「グローバル・オートモーティブ・エグゼクティブ・サーベイ2023」に掲載した以外のデータについても触れており、一部の記述や図表についてはレポートに未掲載のものがあることをお断りします。

執筆者

KPMGコンサルティング
スペシャリスト 伊藤 登史政

自動車サプライチェーン ~グローバル企業と中国企業の比較分析~

本シリーズの第3回以降は近日公開予定です。
また、タイトルは予告なく変更される可能性があります。

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第24回KPMGグローバル自動車業界調査

本調査では、グローバルの展望、パワートレインの未来、デジタル消費者、脆弱なサプライチェーン、新たなテクノロジー、という自動車業界の5つの領域に対してエグゼクティブの考える将来展望を分析しました。
また、独自に日本の消費者約6,000名を対象にした調査を行い、BEV(バッテリー電気自動車)や自動運転の商用化、消費行動に関するデジタル化について、グローバルの経営者の見解と比較しました。

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